1,《イモムシワールド》
2023/9
 日食の際、木陰の地面に三日月形の像が浮かび、葉と葉の隙間で像を結ぶことに気づく。これが、小さな穴で像を得るピンホールカメラの原理の発見だという説がある。この発見の「葉と葉の隙間」が、「イモムシが葉に空けた穴」だと想像すると、鮮明に情景をイメージできた。写真の原風景がカメラと生物が結び付いたものだと想像し、本制作で再現した。【食痕写真】イモムシの食痕がある葉を見つけた。
イモムシの食痕をピンホールの代わりに用いて写真の原風景に接近することを試みる。以下ではこの手法を「食痕写真」と呼ぶ。
​​​​​​​写真の原理の発見が「イモムシが葉に空けた穴」によるものであったのなら、食痕一つ一つそれぞれは像を結び映像を映し出す可能性を秘めているともいえる。食痕から写真の原風景に接続することがもたらすのは、「想像することの豊かさ」だと思う。そこで、食痕写真による画像を元の食痕のある葉にはめ込み直した。食痕の数だけ、写真の世界は像を結ぶのである。
2,《イモムシボックス》
2023/10
4方向をおぼろげなイメージで包まれた立方体の箱。その中にはイモムシ3匹が葉を貪り食っている。
私たちが目で感じている景色とは異なった世界の見え方があることを、鑑賞者は身体を動かして景色を重ねる過程の中で自覚してゆく。食痕写真と現実の光景を重ねるインスタレーションを制作した。
食痕写真で森の風景を写す。 写した風景と重なるように、側面に食痕写真を貼り付けた立方体を設置した。鑑賞者は立方体の側面の写真と、森の風景を重ねて鑑賞する。身体を動かして「イモムシボックス」の側面と背景の景色が重なる位置を探るのだ。また、立方体の箱の中にはイモムシ3匹が葉を貪り食ってもいる。
写真をインスタレーション、かつサイト・スペシフィックな作品としてその場の光景と紐付ける本作品は、空間の捉え方で景色が全く違って見えることを示唆する。身体を動かし、食痕写真を実際の景色と重ねて、景色の捉え方の多様さを身をもって実感する。
3,《やがて羽化をする》
2023.11
本作品は、森の中で行われるパフォーマンスである。パフォーマンスでは、私はプリントした「食痕写真」を使って身体に適合したサイズの「繭」をつくり、繭が完成するとその中で過ごし、それを破って出てくる。イモムシが繭を作るように、私も繭を作るのだ。繭を作って蛾に羽化するイモムシの存在と、多様な知覚の方法を行いたい私自身の存在を重ね合わせた。
また、写真を繋ぎ合わせて繭にすることで、身体にパーソナライズされた空間を作り出し、より一層、写真と身体の関係性が強固なものとなった。私を包み込む繭は、森の中で私のゆりかごとなる。繭の表面の「食痕写真」は木漏れ日を透過し、繭の中を幻想的な光で包む。繭越しに聞こえる近くの鳥の声も、どこか遠くから私を包んでいるように感じる。写真を平面で留めずに、積極的に立体にして空間を再構成することで更なる感覚を得ることができるのだ。
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